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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)184号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実及び本願発明の要旨が審決認定のとおりであること、引用例に審決認定の発明が記載されていること、本願発明と引用発明の相違点及び一致点が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 取消事由(1)について

成立に争いのない甲第一、第四号証(本願明細書及び図面)によれば、本願発明は着色セメントモルタル成形品の製造方法に関するもので、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、従来技術について、「従来の高圧プレスによるセメントモルタル成形品の製造において、搾水面と反対側の面に着色スラリを塗布することができたと報告されているが、この面は離型剤が付着していてこのように着色スラリを塗布しても実用に供される製品とはなり難い。」(甲第四号証二頁六行~一一行)、「高圧プレスの押圧力のみを作用させて製品の圧縮と搾水をする従来のものは、特に搾水面は水分が多く塗料をほどこしても実用化可能な仕上面を得られなかつた」(同三頁三行~六行)と、本願発明の目的について、「塗料が成形品本体に対する付着性のよい着色仕上げしたセメントモルタル成形品、特に着色セメント瓦の製造方法を提供せんとするにある。」(同二頁一二行~一五行)と、右目的を達成する手段について、「この目的を達成するために、本発明は、セメントモルタル材料を高圧プレス金型により圧縮成形する際に脱水面より脱水布を通して吸引力により脱水し、得られた成形品の吸引脱水した吸水性の高い表面に着色仕上げ層を塗布し、しかる後養成(生)場所に搬送することを特徴とする着色セメントモルタル成形品の製造方法を提供せんとするものである。」(同二頁一六行~三頁二行)と、そして、右方法による場合に得られた新知見について、「上型に設けられた脱水布を介して成形される吸水性の高い面が、脱水布の選択により着色表面仕上げのための材料の吹付けにより完成した成形品の表側として十分なことが判明した。しかもこの表側が、高圧プレスに取付けられた上型に面しており、吸引力により脱水しながら高圧で成形した後、受鉄板に受渡した状態で成形装置に隣接した場所で搬送中に着色仕上げ材料を吹付けなどにより塗布することができ、そのままの養成(生)場所に搬送することができる。」(同三頁二〇行~四頁九行)と、右成形品の表面状態について、「成形品表面に底の深い小穴が多数発生することによると考えられる吸水性の高い表面が得られ」(同三頁一一行~一三行)とそれぞれ記載され、次いで、本願発明の方法を実施するために使用する装置の一実施例として、添付図面の第一図ないし第五図(別紙図面参照)に基づき、上方に位置して真空吸引孔10を設け、下面に脱水布2を取付けた上型1を原料投入板7と上型移動用ピストン11とを設けた上型支持体20に取付け、下方に位置して型枠用ピストン15により上下する型枠3内に下型4をかん合するように固定配置し、上型1と型枠3とを接着して中を真空にして高圧プレスピストン5により加圧するようにした装置によつて吸引脱水しながら高圧プレス成形して成形品19を形成し、これを真空吸引孔10を介しての吸引力を維持することによつて上型1に付着させた状態で水平移動して隣接配置された受台22上に載置された受鉄板17に受渡し、次いで、成形品19を受台22から受鉄板17を水平移動するベルトコンベア21に移し、このベルトコンベア21上に配置した塗装装置によるか、もしくは、ベルトコンベア21に引続く別のベルトコンベア21aにさらに移した後、ベルトコンベア21aの上方に配置されている塗装装置によつて成形品19の後記特性を有する上面に塗装を施すという方法が説明され、右成形品19の特性について、「受鉄板17に載せられた状態で成形品の上面は、脱水布2に接した面であり、この面は、脱水布2および真空吸引口10を介して行う吸水作用により残水のない吸水性の高い面となり、着色仕上げ層を吹付けるに適した表面が形成される。」(同六頁一四行~一八行)と記載されていることが認められる。

本願明細書の右の記載及び説明によれば、本願発明の方法は、高圧プレスの押圧力のみを作用させて製品の圧縮と搾水をする従来のものが特に搾水面に水分が多く塗料をほどこしても実用化可能な仕上げ面を得ることができなかつたものであることから、高圧プレス成形装置の上型に設けられた脱水布を介して吸引脱水しながら高圧プレス成形することによつて、成形品に残水がなく、底の深い多数の小穴を有する吸水性の高い面を形成し、その吸水性の高い面に対して着色仕上げ塗装を施した後、成形品を養生場所に送ることを特徴とするもので、しかも、本願発明の着色仕上げ層塗布工程は、成形品の圧縮成形工程後養生工程に搬送される間に設けられるものであることが認められる。

原告は、本願発明は圧縮成形工程後のすぐ後で着色仕上げ層塗布が行われるものであることを前提として把握されるべきであると主張するが、本願明細書には、圧縮成形工程直後に着色仕上げ層塗布が行われなければならない旨の明確な記載はなく、また、本願発明の方法において、吸引力により脱水しながら高圧プレス成形することによつて形成された成形品の表面特性、すなわち残水がなく、しかも底の深い小穴を多数有することにより吸水性が高くなつているという前叙の表面特性が、成形後、短時間の経過により減少ないし消滅するとする根拠はないから、圧縮成形工程直後に着色仕上げ塗布が行われなければ、右表面特性に基づく作用効果が達成できないとする根拠もない。原告の指摘する本願明細書中のないしの記載は原告の前記主張を根拠付けるものとは認められない。

そうすると、本願発明は養生前に着色仕上げ層を塗布する工程を設けているとした審決の判断に誤りはなく、その理由不備を主張する原告の取消事由(1)は採用できない。

2 取消事由(2)について

(一) 成立に争いのない乙第一号証の一ないし三(「建築材料・工法ハンドブツク」狩野春一監修・著、昭和四四年四月一〇日株式会社地人書館発行)によれば、その四五四頁~四五五頁「(b)製法」の項には、セメント瓦の製法に関連して、原料モルタルを製瓦機を用いて成形したものの上に着色剤入りセメント粉を散布して表面だけに着色を施したり、瓦を着色剤入りモルタルで成形することを養生前に行うことや、養生完了後にビニル塗料等を塗布して着色することについて記載されていることが、成立に争いのない乙第二号証(特開昭五三―九六〇一六号公報)によれば、モルタル成形品の面に、成形時に塗膜を付与し、その後に成形品を養生して合成樹脂化粧塗膜面のある瓦等を製造する方法について記載されていることが、成立に争いのない乙第三号証の一ないし三(「実技詳解セメント工」矢崎好幸著、昭和一四年七月二〇日学校美術協会発行)によれば、その八一頁に、型枠の底に顔料を含む粉末を広げ、その上に硬練モルタルを盛つた後圧搾成形し、最後に水分を与えて凝結硬化させるという、いわゆる成形時に着色層を付与した着色モルタル成形品の製法が記載されていることが、成立に争いのない乙第四号証の一ないし三(「石綿セメント製品」熊谷国嗣著、昭和一六年一〇月一五日合資会社共立社発行)によれば、その四六頁には、セメントと石綿粉その他の充填材料を加えて水を少なくし混合機で混練したものを瓦等の型に入れ、着色材料調合物を表面に振りかけたものを押圧成形して表面に着色層を有する成形品とし、これを加温養生する方法が記載されていることが、成立に争いのない乙第五号証(特公昭二八―三一三〇号公報)によれば、同公報には、型枠にポートランドセメントと洗浄砂とを少量の水で混練したものを詰め込み、その上に色素粉末や珪酸粉末を白色セメント又はポートランドセメントに十分に混和した微粉末を振りかけた後、圧縮成形して着色タイル成形品を得、これを湿室中で硬化させた後養生する方法が記載されていることが、成立に争いのない乙第六号証(特開昭五〇―九六一六号公報)によれば、同公報には、表面に凸凹模様を付与成形された未硬化(養生前)の石綿セメント板の表面に、着色粉末とセメント粉末を主体とする粉末によつて着色層を形成し、そのものを最後に養生して硬化させる着色石綿セメント板の製造方法に関連して、未硬化の石綿セメント板への着色剤粉末等による着色層の形成は、一次養生の前段階でも、後段階でも行われるものであること、加えて、自然養生後の石綿セメント板も自然養生前のものもともに、湿潤状態にあるという表面状態を利用することによつて、これらの段階で着色粉末等を散布塗着すると石綿セメント板表面に対する湿り付与作業が省略できるものであること等が記載されていることが、成立に争いのない乙第七号証(特開昭五〇―八八一五号公報)によれば、同公報には、生産ラインにおいて同時に表面処理を行う表面処理プレキヤストコンクリート板の製造方法に関して、合成樹脂系塗料を用いる場合には、プレキヤストコンクリート板表面のpHの低下、含水率の低下を確認した上で塗装が行われるのが一般的であることや、セメント系吹き付け剤であればプレキヤストコンクリート板のpHの低下や含水率の低下を待たなくても塗装施行が可能であるが、塗装した後塗着層が十分な強度を発現するまでには長時間、例えば一ケ月程度放置養生せしめる必要があること等に加えて、着色顔料等を含む水性エマルジヨンのような流動性組成物の塗着を、プレキヤストコンクリート板の製造工程中、自然養生方式の場合は左官仕上げ終了後に、また、加熱、養生方式の場合には、左官仕上げ終了後よりシートがけを行つて本養生に入るまでの間に行うというように、セメント板の状態に応じて着色剤の塗布を行う段階が変えられること等が記載されていることが、成立に争いのない乙第八号証(特開昭五四―二四九二五号公報、昭和五四年二月二四日公開)によれば、同公報には、高分子材料よりなる着色塗料の場合には、モルタルを型にのせて加圧成形し、長期間養生を施した瓦に塗布するのが普通であること、着色顔料を含有する水性スラリーによつて着色層を塗布するものとして、加圧成形直後の未養生瓦にスラリー塗布して着色層を形成し、これを長期養生した後、高分子材料よりなる透明塗料を塗布するものもあること、しかし、水性スラリー塗布により着色層を形成する方法としては、モルタルを型にのせて加圧成形する際に、型にのせたモルタル塊上に水性分散顔料含有カラーペーストをのせて加圧成形し、その直後の未養生瓦に透明塗料を塗布する方法が良いこと等が記載されていることが認められる。

乙第一ないし第八号証の右の記載によれば、セメントモルタル成形品を着色すること自体及び着色するにあたり、成形品の表面状態又は着色剤の種類に応じて塗布工程を製造工程の適当な段階に設けることは必要に応じて適宜なされるものであることが本願出願日前周知であつたものと認められる。原告指摘の甲第二、第三、第六、第七号証は、右認定を左右する資料とは認められない。そうすると、右認定と同趣旨の審決の判断に理由不備及び事実誤認はないといわなければならない。

原告は、右乙第一ないし第八号証は審決において引用されていないもので、本件において審決の認定の根拠たる資料とすることは許されない旨主張するが、右乙号各証を前示の周知事項認定の資料とすることが許されないとする根拠はないから右原告の主張は採用できない。

(二) 前記当事者間に争いのない審決認定の本願発明の要旨及び引用発明の記載、本願発明と引用発明の相違点及び一致点並びに前掲甲第三、(引用例明細書)、第一、第四号証(本願明細書及び図面)によれば、引用発明は、真空中の充填加圧により成形するセメント瓦製造装置に関するもので、引用例に記載されたセメント瓦の製造方法は、本願発明の方法における着色仕上げ層を塗布する前のセメントモルタル成形品の成形方法と同一方法であると認められる。したがつて、引用発明の方法により成形されたセメントモルタル成形品の表面状態は本願発明の前叙の表面特性を有していると推認されるところ、前叙のとおり、本願発明の成形品の表面は、「脱水布2および真空吸引口10を介して行う吸水作用により残水のない吸水性の高い面となり、着色仕上層を吹付けるに適した表面が形成される。」(甲第四号証六頁一五行~一八行)というのであるから、当業者であれば、右の表面状態をみればその表面が着色仕上げ層を塗布しようとすればできる状態にあるであろうことは容易に気付く程度のことであると認めることができ、本件証拠中右の認定を左右するに足りる証拠はなく、これに反する原告の主張は採用できない。そうすると、吸引脱水した表面につき右認定と同趣旨の判断をした審決に理由不備、事実誤認は認められない。

(三) 以上のとおり原告の取消事由(2)の主張は採用できない。

3 取消事由(3)について

(一) 前叙のとおり、引用例の成形品が着色仕上げ層の塗布に適しているものであることは、その成形品の前記表面状態を見れば容易に想到し得たものであるから、かかる表面状態のものに着色仕上げ層を塗布すれば、塗料の付着性が良いことは当然予測された効果と認められる。

(二) また、製造工程を簡略化できるという効果は、塗布工程を製造工程の任意の段階に設けることによつて等しく奏せられる自明の効果であり、塗布工程を成形工程に隣接配置したことによつてのみ奏せられる効果とは認められない。

(三) 成立に争いのない乙第一〇号証の一ないし三(「無機有機工業材料便覧」永井彰一郎編集代表、昭和三五年三月二〇日東洋経済新報社発行)によれば、モルタルやコンクリート表面の白華を塗装により防止し得ることは広く知られていることが認められる(原本の存在及び成立に争いのない甲第八号証からも窺われる。)から、白華の防止効果は本願発明特有の効果ということはできない。

(四) 以上のとおり、本願発明の効果は、予期される効果にすぎないから、本願発明の効果は予期以上の優れたものとはいえないとした審決に理由不備及び事実誤認はなく、原告の取消事由(3)の主張は採用できない。

三 以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも失当であり、審決にはこれを取消すべき違法の点はないから、原告の本訴請求を棄却する。

〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

セメントモルタル材料を高圧プレス金型により圧縮成形する際に脱水面より脱水布を通して吸引力により脱水し、得られた成形品の吸引脱水した吸水性の高い表面に着色仕上げ層を塗布し、しかる後養生場所に搬送することを特徴とする着色セメントモルタル成形品の製造方法

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